適地適作の「天草」でミカン作り 夢実現にチャレンジ
八木さんのミカンづくりにかける熱い思いは計りしれない。
2010年、自宅がある島原半島から海を隔てた対岸の熊本・天草地方で新たな挑戦を始めた。「ミカンづくりに適したところで品質の良いミカンをつくりたい」という、就農時からの夢を実現させるためのチャレンジだった。
「ミカンづくりにはぴったりの土壌」とほれ込み、天草で15㌶の用地を取得。現地に宿舎も確保するなどの熱の入れよう。時には奥さんと2人で数週間、そこに泊まり込んでの苗植え作業が続く。「心配なところもあるが、楽しみのほうが多い」と、4年後の収穫に胸を膨らませている。
関東を中心に「日野江」ブランドで販売!地域貢献にも積極的
八木さんは島原半島にある雲仙普賢岳の近くで、両親から引き継いだ果樹園で良質の「ミカン」「デコポン」などの柑橘類や「梨」を生産。引き継いだ当初と比べると、栽培面積は5倍以上に広がる。八木さんが生産するミカンは関東を中心に、「日野江」ブランドとして、デパートやスーパー、生協などに出荷されている。
栽培に従事しているのは、八木さん夫婦と次男夫婦の家族と従業員3人、パート15人。25年ほど前から長崎県立農業大学校などから研修生も受け入れるなど、地域貢献も積極的に取り組んでいる。
1年間の研修で就農を決意!「人間的な魅力にほれ込んだ」
就農前までは、「農業はしんどいし、儲からないと思っていた」という八木さん。その八木さんが、就農するきっかけとなったのは高校3年の夏休み、父親から誘われて、一緒に熊本県のミカン農家を視察した時だったという。
その理由は、従来の人力による各種作業を機械で省力化に取り組む効率的な生産体制を目の当たりにしたのと、「視察先のおやじさんの人間的な魅力にほれ込んだから」だったという。視察帰りの車の中で、1年間、そこで研修させてもらうことを決意した。「毎日の仕事は厳しかったが、やり方次第で農家はもうかると肌で感じることができた」という。
1年間の研修後、「おやじさんを追い越すことを目標」に設定して就農。収穫量アップと品質向上を目指して創意工夫し、生産地域の土壌に合う品質導入に早くから取り組み、高品質ミカンの安定的な生産を実現するなど情熱と実行力を持った農家へ成長していった。
あふれる愛情「ミカンづくりは子育てと同じ」
農業は自然が相手。「いかに努力しても毎年同じ品質の果物をつくることはできない。しかし、それでも一生懸命頑張っておいしいものをつくっていきたい」と、可能な限りの努力は惜しまない。
その努力とは、あふれんばかりの生産物に対する愛情だ。その思いを八木さんは目を細めてこう話す。 「樹木に対しても一生懸命育ててやれば毎年おいしい果物ができる。手を抜けばそうはいかない。手をかければかけるほど樹木は必ず結実という形で応えてくれる。子育てと同じです」
食への安心・安全へも強いこだわり
食の「安心」と「安全」へのこだわりも強く、土づくりと化学肥料や農薬をできるだけ使用しない栽培に取り組むエコファーマー認定を取得。雑草駆除には除草剤は一切使用せずに年間8回程度、手作業で雑草を駆除するなど環境に配慮する取り組みを積極的に行っている。
ただ、結果として収穫量が減ったり、見た目が悪くなったりすることもある。しかし、その収穫物を持って学校給食会にPRに行ったことがきっかけで、食農教育に関する講師のオファーがくるなど、消費者から着実に評価されている。
これからの大きな目標は、「一つ目に品質を厳選しおいしい果物を生産すること、二つ目にうまくて安心なものをつくること」ときっぱり言いきる八木さん。適地適作の「天草」で八木さんが育てた、「こだわりのミカン」が消費者の食卓に届く日もそう遠くない。
プロフィール
マルハチ代表:八木 敏夫さん
第54回全国農業コンクール優秀賞(毎日新聞社賞)
長崎県南島原市有家町 1953年8月16日生。高校卒業後、1年間の農業研修を経て就農。現在はミカンを中心とした柑橘類と梨を生産する大規模果樹園を経営すると同時に、地域生産者の組合代表として、環境に配慮した生産にも積極的に取り組んでいる。